乱暴な言葉につんけんした態度と中身とはかなり開きがあるんだって判ってから旅はそんなに辛くなくなった。ただ正面切ってそんなことを言ったら全力で否定されそうだからちょっと待ってみた方がいいのかもしれない。
氷に閉ざされたゾーラの里で、青白く光る氷漬けのゾーラ達は痛ましくて目を背けたくなるようだった。
「…なあ、こいつらなんとかしてやれないのかな」
背中の上から聞こえてくるミドナの声。
人の耳でだったらただの小さい声に聞こえたかもしれないけど、そうじゃない。やっと喋って語尾がほんのわずか震えてる。何も喋らないでいると胸が跳ねて仕方がないから、自分を落ち着かせる為に喋ってるんだってわかった。
何を見ても心が動かない根っからの冷血じゃないんだ。
ハイリア湖で最後の光の精霊のかけらを守る巨大な虫と対峙した時も別の意味でぞっとした。
「ワタシはこういう気味悪いのは苦手なんだ!」
どうも大きいのが駄目なんじゃなくて虫とかが駄目みたいで。大体魔物がそんなのを怖がるってどういう理屈なんだか。イリアやベスだって虫位平気の筈。他に女の子って言っても良くは知らないけど…例えば、ゼルダ様みたいな人だったら顔を顰めたりするのかも。
となると案外育ちがいいとか。(魔物が育ちがいいってのもよくわからない話だとは思う)
そして光の精霊の守る泉で。
気が遠くなる中ミドナがどうやら僕を呼んでるらしいのは聞こえたし、その後ゼルダ様の所までミドナを運んだ挙げ句、ミドナの口からやっと出てきた言葉はこうだった。
「…だから…姫さん…頼むよ…リンクを助けてやってくれよ!」
…僕のことを構ってる場合じゃないだろ?
…そんな苦しい息で(認めたくないけどわかる、これは死に招かれてる者の呼吸だ)どうしてそんなことが言えるんだろう。
薄闇の中目を開けると小さい手が僕の毛皮をぎゅうと握りしめてるのが見えた。
明け方は冷えるから風邪なんてひかないといいけど。
ミドナを起こさないように姿勢を変えるのは少し苦労した。