ひとづま・その1

 「ええとね」
 とか、妻は夫が半年振りに帰ってきた夕飯の席で言うのだった。
  
 別に今の生活に不満も不安もないんだけど
 自分もここで職を得て職業人としてとても充実している
 異郷だけど他の皆も親切だし
 本当に不満はないんだけど
 でもだからこそ終業後このマンションに帰ってきてからの一人の時間がとても空虚で重い
 勿論そちらが仕事が忙しいのは承知してる
 手を変え品を変えてコミュニケーションは取って貰ってるし
 本っ当ーに不満はないんだけど、ね

 「…そっか」
 元々そんなに夕飯をしっかり食べたいタチでもなく食事が終わるより彼女の話が終わる方が遅かったのだけれど、皿の上に戻し損ねて彼女の話の間中ずっと手に持っていたフォークを置くとちょっと大きな音がした。
 その音に何故か彼女が肩をびくつかせる。
 立ち上がると彼女の背後に立ち、よいせと彼女の体を抱え上げた。テーブルが大きくずれて椅子が倒れたけどいいや気にしない。
 「ちょっと?」
 「なんだ、そういうことならこっちが先でも良かったのに言う事がいちいち遠まわしだから。婉曲表現って嫌いだな」
 「…え?」

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