全部のことがああそうかって辻褄が合ったような気がした。大きな木の太く張った根や、枝に繁る葉とかの一部分しか見えてなかったのに急に木の姿そのものが丸々見渡せたみたいに。
鏡を守る賢者達は深々と頭を垂れた。ミドナの前で。
「なんだ…知ってたんだ」
そしてミドナは話し出した。ミドナの旅の理由、僕の旅の原因を。
それは今までミドナが話してくれないなりに僕が「そういう事情」なんじゃないかとぼんやりと考えていたことを上回っていた。
ミドナが実は影の世界の姫-賢者達はミドナを黄昏の姫君と呼んだ-だってことには驚いたけれどそれ以上にずしりときたのはミドナ自身のことだ。
村で暮らしてた頃は楽しいことがあれば笑って、悲しいこと悔しいことがあれば泣いて怒ってと自分の気持ちを隠したりすることなんてなかったからミドナに会ってから人の優しいことも表し方が色々あるんだって知った。
でも。
影の世界を逃げ出て僕と旅をするようになってから、自分のすぐ間近に死が這い寄ってる時ですら一切のことを言い出さず、そしてたった今賢者達に頭を下げられるまで口を開かず。
僕が知ってるのは高飛車で、皮肉屋で、気にしたがりで、優しいミドナだけど、それは上っ面だけでちっともミドナのことを知ってるってことになってなかった。
ミドナは一体これまでどれだけのものを背負ってたっていうんだろう。そしてどれだけのものをあの小さい体に宿してるんだろう。…そうだ、剣の腕や力だけじゃない、強さにも種類があるんだ。
なんて強くて、なんて孤独な。
「…言いたいこと、あるんじゃないか」
語る言葉が途切れて、僕を見下ろすとミドナは言った。
「…旅に出てから驚くことばっかりだよ」
「…だよな」
ほんの少しだけ、口元を緩めるとミドナは鏡の方を向いた。鏡はずっと淡い光を放ち続けていて照らされるミドナの表情ははよくわからない。
「…だけど…身を呈してまで人を救おうとする姫さんやリンクに会って…今は心の底からこの世界を救いたいと思ってる…」
振り返って、赤い瞳が僕を見る。
そして、ゼルダ様の為に、この世界の人の為に行こう、と、握り拳を作ったミドナを見て、ミドナは今までずっとこんな風にしてきたんだと思わずにはいられなかった。
鏡から放たれる光は相対する岩盤に聖なる三角を中心に配した不思議な円状の紋様を写し出していた。
僕は紋様が刻まれた足場を踏んだ。
そのせいかもしれない。
光の世界の黄昏時のような茜色と、暗雲が入り混じった世界で一歩を踏み出した時。
「…もう少しだけでいいんだ。迷惑かもしれないけど…リンクの影になってていいかな?」
そう言ったミドナの影の姿の顔は泣いてるようにも見えた。