ひとづま・その2

 

 こんこん。
 控えめにノックして、ドアをそっと押し開けると部屋の中の様子を伺う-遮光のカーテンがかかった部屋の中は朝日が昇って大分経つのに薄暗いままで、聞こえてくるすうすうという寝息が部屋の主はちゃんと帰宅したよと教えてくれた。
 床のあちこちにワイシャツやベルトやらが落ちているのを見て足音をたてないように部屋に入り、珍しいこともあるのねとそれらを回収してゆく。何せ部屋の主はマメというか几帳面な性格なもので、服がこういう状態で放置されてることは滅多にない。ワイシャツは脱げば洗濯機に、スラックスはハンガーにかけてクロゼットに、ベルトはくるりと丸めてクロゼットの中の篭に。
 それなのに今朝は部屋がこんななのも無理はない、何せ昨日は夫が数年、立ち上げから関わったプロジェクトの完成による打ち上げ会だったのだ。普段はちょっとばかりお堅い夫が今晩は帰るの遅いからねと断って出てゆくのに、夫の仕事を知る妻は嫌味の一つも言うつもりなんてさらさらなかった。こういうガス抜きにだってちゃんとつきあえる健全さがあるのは人としていいことだと知っていたから。
 「つーかまーえた」
 ベッドから腕がにょっきり伸びてきて中に引き込まれたのは、まさしくベッド脇に落ちていたスラックスを主がそうするようにハンガーにかけようとかがんだ瞬間だった。
 「…きゃ!?」

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