ネタ下さい企画別名他の人だってネタには困ってるだろうに考えて貰おうってのがせこいんだよばーかばーか企画。「ミドナが食べられそうなものを作って食べさせてあげるリンク(短編のスープの話を踏まえて)」
おいとまします位言っていこうよと言うリンクに私は首を振った。
リンクと私の視線の先にはしっかと抱き合う獣人の夫婦。
「止めとけよ。ここでだらだらしてたらあの熱で雪が溶けて雪崩の一つも起こるかもだぞ?そんなことになったら面倒だ」
本当は二人の邪魔をしたらいけないという以上に、鏡のかけらがあの奥さんに何をしでかしたのかを見てぼやぼやしてられないって気分になったのもある。
私たちが話してることなんかどこ吹く風で完璧に二人だけの世界を作りあげてるのを見て納得したようで、リンクは肩をすくめた。
「そうだね」
そんな訳で私たちはなるべくそうっと寝室を出て、そうっと館を出た。空を見上げると相変わらず灰色の厚い雲が垂れこめていたけれど雪はいつの間にか止んでいた。まさか本当にあの二人の熱が降る雪を溶かしてるなんてことないよな。
「ハイラルに戻ろうか?」
リンクの言葉にいつも通りに答えて、ポータルを開けようとしたその瞬間私の口からくしゃみが飛び出した。
一回。
二回。
三回。
リンクは怪訝な顔をして私を見た。
リンクの指が私の顎を軽く押さえる。
「喉の奥真っ白になってる」
リンクの手が結晶石を脱いだ私の額に当たる。
「何だかあったかいし」
リンクはきっぱりと言った。
「風邪だね」
「わざわざ言うなよ。もっと具合が悪くなるような気がする」
あの女将の酒場でリンクの兄貴分とかいう奴が丁度森の神殿の方に戻ってるという話を聞いて、ついでにと私たちはリンクの家に立ち寄った。…いや違うなハイラルに戻った途端寒気がしてきて、喉が痛くなって、咳が出てと風邪の兆しが揃ってやってきたものだからリンクが私のことを気にしたんだ。
リンクの家に着いて早々私は影の中で寝てるよりいいよと言われてリンクの寝台を占領する羽目になっていた。普段ならそんなこと断るのに私の熱っぽい体はちょっとのつもりで横になるとずしりと重さを増してしまい、これ以上は動きたくないと駄々をこねてるようだった。
リンクは掛布を私の肩まで引き上げるとなんとなくおかしそうな様子で私を見下ろした。
「僕は寒くて仕方がないのにミドナってずっと平気な顔してるし変だと思ってた」
「鈍くて悪かったな」
言ったって分からないだろうから言わないけどこの小鬼の体を一番もてあましてるのは私だ。それに寒い寒いって言ってた人間が平気な顔で私の額に触ってたりしてるのがそもそも解せない。
「ちゃんと休んで治そう。モイにはすぐ追いつくから大丈夫」
「でもこの森のどこかでまた鏡のかけらが悪さしてるかもしれないんだぞ?」
喉の痛さも頭の重さもうっとおしいけど私が一番気になってるのはこれだった。鏡に魅入られた者がどんなことになるのか思い知ったばっかりじゃないか。
なのにリンクは呑気に笑う。
「きっとまた僕とミドナで止められるよ」
「あのな」
皮肉ろうとした私をリンクは遮った。
「ミドナが調子悪いままだと僕も困るから」
知り合ってからそう何度も見聞きしたことがない、リンクの表情と声とに帯びる一切の反論を許さない調子に私は黙るしかなかった。こうなったらリンクはどうやっても自分を曲げない。
「何か食べられるもの作るから休んでて。…熱いの駄目だって言ってたっけ?」
「熱くたって放っとけば冷めるから別にいい」
獣人がこさえたスープをわざわざ息を吹きかけて冷ました時といい、リンクの言い方がいちいちひっかかるのは風邪のせいなんかじゃない。
それからしばらく、リンクが台所で何かしてるようながたがたという音が熱でぼんやりした私の耳に聞こえては遠ざかっていった。
呼ばれて起き上がり、やっと台所の卓と椅子に辿り着いた私の前に置かれたのは皿と匙だった。皿に盛ってあったのはなんだかわからない白いもの。
「…なんだよこれ?」
「喉が痛くて普通の食事がよく食べられない時に作るんだけど」
リンクに勧められるままに私は匙を手に取った。匙を差し込むと柔いかたまりが持ち上がったのでそのまま口に運ぶと、そのかたまりは私の喉をするすると下っていった。どうやら山羊の乳を固めたものらしいのは鈍くなってる舌でもなんとかわかる。
「冷たい」
「ミドナが寝てる時に泉で冷やしてきた」
「甘いんだな」
「蜂蜜入れたから」
冷たさも甘さも腫れあがった喉には優しくて、全て食べ終えるのにあまり時間はかからなかった。
リンクには家族がいないから小さい頃から家事全般こなしてたという話は前に聞いてた。でもこういう時に丁度いいものは何かを思いついて作れるってのは技能じゃなくて才能の一種なんだなと素直に感心したくなる。
卓の上に肘をついて何だか嬉しそうに私の方を見ていたリンクは言った。
「村じゃ風邪ひいて機嫌が悪い子供に出したりするんだ」
にこにこして、悪意なんてひとかけらも感じられないけどまたかと思わずにはいられない。一体どう言ったら伝わるんだか。
「リンク、ワタシはこんなでもお前の村のチビ達とは違うんだから子供扱いはやめろ。迷惑だ」
「病気の時は誰でも子供なんだよ?」
平然とリンクは空になった皿を取り上げた。
「おかわりは?」
「おかわりって」
断ろうとして私は奇妙な音に耳を澄ませた。虫の音?…違う、これは私の胃の腑がたててる音だとわかった時にはもう遅い。
「食欲はあるみたいだね。良かった」
私の言い訳も何もすっかり無視してくすくす笑いながら、リンクは竈の上の鍋に向かった。
※これだけ言い訳:リンクが作ってるのは牛乳餅みたいなもの推奨※