ドラクエ8・その3

●きれいにしてあればどんなでもいいと思います●

 ククールが仲間になった。
 「というわけで色男、男同士の親睦を深めるにはまず裸のつきあいからでがすよ、一緒に風呂に入るでがす」
 「おう」

 …
 …
 …

 「ククールのって違うね」
 「違うでがすね」
 「うるせえなあ俺のは宗教上の理由ってやつだよ!?」

●色々な好みの人がいます●

 煉獄島で閉じ込められた。
 「あれだ、ここはやっぱり天の岩戸作戦だな」
 閉じ込められて10日目、ククールは皆を集めるなり言った。
 「天の…岩戸って何?」
 ギデオンが素朴に疑問を口にする。
 「東の果ての国の神話でさ、女神様が怒って岩の牢に閉じこもるんだよ。それを牢の前で美人が踊ったりどんちゃん騒ぎをやったりして外が賑やかなのを覗こうとした女神様が扉をちょっと開いた隙に扉をこじ開けたっていうやつ」
 「要するに何か騒ぎを起こして気を引いて扉を開けさせるってことでしょ、それ」
 ゼシカが要約して、ちらりと閉ざされたままの鉄格子の扉に目をやる。
 「…確かにずっと手をこまねいてるよりやってみる価値はあるでがすが、誰がその美人の役をやるでがすか?」
 四人の視線が切なく狂おしく交差する。
 「ここはやっぱり、ほら、美人ってことで私じゃない?」
 頬に手を当ててゼシカは言った。恥ずかしがってるんだか嫌がってるんだか嬉しがってるんだかわかんない。
 「いや、こーゆーせまーい場所でくらーく仕事をやってる奴ってのは結構歪んでたりするんだぜ、色々と。ここはカリスマ100の俺が」
 何故かククールは胸を張る。
 「何言ってるんでがすかああいう筋肉ダルマタイプってのには案外あっしみたいなのがウケが良かったりするんでがすよ」
 むん、と、ヤンガスが力こぶをこさえた。
 「僕姫様に”あなたはおっさん受けする顔ですねギデオン”って言われたことがあるんだけど」
 更に混乱させるようなことを言うギデオン。
 「やっぱりここはセクシービーム完備の私でしょ」
 「マイエラ時代に俺に振られて涙を流した男は星の数ほど居るんだぜ?」
 「いやいやあっしプリティヒップにゃちょっと自信があるでがす」
 「ところで受け顔って何?」
 やいのやいのやいの。

 今日もやっぱりここから脱出できそうにない。
 ニノ大司教は四人の姿を見てこっそり溜息をついた。

●GPMでもやったネタ●

 「薄い紙位だったら結構いけるよねえ?」
 「羊皮紙はどうでがすか」
 「俺実は水汲んだ桶が吊れるんだ」
 実践、そして怒号のように巻き起こる歓声と拍手。

●永訣の朝●

 20枚のカードがテーブルに叩きつけられた。
 「ブタ、でがす」
 「ツーペア」
 「ワンペア」
 「ストレート。ほらやっぱり俺の勝ちだろ」
 ククールは笑った。ギデオンとヤンガスはやれやれと苦笑いし、ゼシカは心底悔しいという風情でスペードの1を手に取った。
 「…どうして勝てないのかな」
 呟くとカードをぐにゃりとひねる。罪も無い哀れなカードをゼシカから取り上げるとククールはシャッフルした。流石に手馴れたもので彼の指先で魔法のようにカードが踊る。
 ゼシカはカードを横目で見ながらすっかり氷が溶け切って薄くなったグラスの中身を飲み干した。もう何杯目なのか数えていないけれど、今夜はやけにペースが早い。
 「そもそも5枚のカードに役が揃う確率はそんなに高くねえんだよ。だから勝つためには多少のイカサマを使うのも必要でね。それを悟られない為には表情を動かさない。ポーカーフェイスって言葉はここから来てる」
 「イカサマって…ククールまさか」
 ゼシカはじとっとククールを見つめた。ククールは慌てて両手を広げる。
 「してないしてない。イカサマ以前に皆が弱っちいだけだって」
 「悪かったわね」
 「さ、もういいだろ?また明日も早いんだしそろそろ休もうぜ」
 頷くと欠伸をしながらヤンガスはテーブルを後にし、ギデオンは姫様の様子を見てから寝ると言って酒場を出て行った。
 ゼシカはカードをしまうククールを両腕を組んで睨みつけていたが、やがてぽんと手を打った。
 「寝る前にもう一勝負しない?」
 「何やるんだ?ブラックジャックでもセブンブリッジでも勝つけど俺」
 「そうじゃないの。何を言われても聞かれても『いいえ』っていうルール。『いいえ』以外を言ったら負け」
 ゼシカの提案を頭の中で反芻して、ククールは笑った。とても意地悪な笑み。
 「いいけどただ勝負したってつまんねえだろ。何か賭けようぜ」
 「何かって?」
 「負けた奴が勝った奴の言うこと聞くの。俺が勝ったら…そうだなゼシカに脱いでもらおうか。いや裸エプロンであなた朝よ♪とか言って起こして貰う」
 何故か笑うゼシカ。
 「いいわよ。じゃあ私が勝ったら同じことして貰うんだから」

 そしてそれから半刻ほど。
 「ククールと初めて会ったのってドニの町だったわよね」
 「いいえ」
 「やっぱりカードでイカサマしてたわ」
 「いいえ」
 ゼシカはがんがん酒をあおる。ククールも適当におつきあいしながらこのよくわかんないゲームを続けていた。
 「私のこと、神鳥の巣で庇ってくれて」
 「いいえ」
 「煉獄島で脱け出す時には手を貸してくれた」
 「いいえ」
 どうもゲームというより昔話みたいになってるな、とククールはひとりごちた。まあいいさたまにはこんなのも。何せゼシカと一対一ってのは滅多にないことだし。
 かたり、とグラスをテーブルに置く音にククールは我に返った。
 自分を見上げるちょっと焦点の定まらない大きな茶色の瞳は潤みがち。
 上気して桜色に染まった肌。
 体を乗り出してきてるから、視点の高さ的に胸元が覗けるか覗けないかという位のきわどさで。
 「…ね、ククール。キスして」
 酒に濡れて艶っぽい声。
 まるでこんなのが初めての子供みたいに心臓が跳ねる。
 「え、いいわけ?」
 と、はぐれメタルも真っ青の素早さでゼシカは退いた。
 「はい、ククールの負け」

 ひばりの鳴き声に冷たい空気、気持ちよい朝の日の光。
 さてさて残るオーブもあと三つ、ラプソーン討伐に向けて今日も頑張ろう。
 ばっちりと目を覚まし、ゼシカは勢いをつけて起き上がった。
 と、人の気配を感じてそちらを向くと、そこには、

 尻、があった。

 勿論尻単体ではなくその上には上半身があって、その下には二本の足がにょっきり伸びていたのだが。
 広い背中に、程よく筋肉のついた逞しい腕。
 浮いた肩甲骨。
 明るいピンク色のふりふりしたエプロン。
 背筋に沿って流れる長い銀色の髪。
 でもって上半身の割に小さくて引き締まった尻。
 ばんと張った太股。
 …
 荷物でもいじっているのか右へ左へと体を移動すると、言うまでもなくそれに合わせて尻が動く。そりゃあもうすっごいインパクト。まともに声も出ない位。
 「…く」
 その声にククールは振り返った。
 「お、お目覚めかいハニー?」
 振り返った彼の姿にもすっごいインパクト。一瞬で寝起きの全身に血が巡っちゃう位。
 「ククールククール何なのそれどうして何も着てないのっていうかどうしてエプロン姿なのっていうかどうしてそもそも私の部屋にいるのとかそれより何よりそのフロント部分の盛り上がりってナニそれっ!」
 「ああこれ」
 ククールは改めて気がついた、とでも言うように下を見てエプロンの裾をちらりと持ち上げた。
 「元気な証拠。見てみるか?」
 「メラゾーマ」
 
 ククールが瀕死の重傷を負っちゃったお陰で勇者一行が世界を救うのが三日ほど遅れたというのは誰も語らない歴史の裏話。

●ANOTHER GAME●

 「…ポッキーゲーム?」
 ゼシカは胡散臭そうにククールを見た。
 「そうそう俺が咥えてるこれをさ、そっち側からぱくっと」
 口の端からポッキーを下げたままククールは答えた。少々お行儀が悪い。
 「お生憎様、私甘いものって苦手なの」
 「そうか」
 あっさり引き下がるとククールはギデオンに声をかけた。
 「おいギデオン、お前甘いのって大丈夫かよ」
 「え、甘いもの?大好き。どうしたのそれ」
 二人のやりとりを背中で聞きながら、何となく面白くないゼシカ。
 …何よそれ、もしかしてギデオンとポッキーゲームやるつもり?
 沸き起こる疑問。
 「いやゼシカを誘ったら断られてさ。どうだ?」
 「嬉しいな僕小さい頃甘いものってあんまり食べられなかったから弱いんだよね」
 …そういえば修道院って男男交際の巣窟とかなんとか聞いたことあるけど。
 募る妄想。
 「遠慮しないで食えよ」
 「うんありがとう」
 …そーいえばククールが綺麗な顔してるからあんまり目立たないけどギデオンも結構な童顔で可愛い系よね。近づく顔と顔。見つめあう瞳と瞳。ククールがギデオンって案外欲張りなんだな、とかなんとか言ったり。それに答えてギデオンがだってさ、とかなんとか照れるの。
 じゃなくて!
 今私が怒らないといけないのはククールが私に今まで散々あれこれ言ってたのにそれが偽りのまやかしでそれでなおかつ私がギデオンに負ける存在だってことでああでも私は女の子だし相手が男の子の場合勝負ってそもそも成り立つのかどうかわかんないけどこれって凄い屈辱なんじゃないの!?
 ヒートアップ。
 ゼシカは振り返るなりギデオンを思い切り突き飛ばした。ギデオンもろともポッキーの箱が床に散る。
 「ククール!」
 「は?」
 ぽりぽりぽり、と小気味良い音をたててゼシカはククールの口の端から下がったままのポッキーをかじった。
 ゼシカの顔がククールの顔とほんの指先分の距離に近づいて、止まる。
 「何か文句ある!?」
 ポッキーの端っこを咥えたままゼシカはククールを睨んだ。
 「…いや」
 ゼシカが射程距離に入ったと悟ったククールはちょいとゼシカの顎に手を当てると残りのポッキーを食べ尽くした。
 何の前置きもためらいもなくすっごく無造作に重なる唇。

 「…本当は甘いもの好きなら素直に言えばいいのに」
 床に散ったポッキーを拾い集めるとギデオンは微妙にずれた感想を述べ、とっとと退散することにした。
 風に乗って遠くから、破壊の轟音が鳴り響いてきた。

0