ネタ下さい企画・その2

 

 ネタ下さい企画別名他の人だってネタには困ってるだろうに考えて貰おうってのがせこいんだよばーかばーか企画。乾様より「大ミドナと小ミドナが同時に登場する(夢オチ可)」

 国が大変な時なんだ、華美な式なんていらない。
 というのが一致した意見だった。
 それでもミドナがこの国の長であるという立場上形式だけは整えないわけにはゆかず、二人の婚儀は家臣達の前で執り行われることになった。
 まずリンクが光の世界の民であることを捨て影の世界の民の一員となることを宣誓し、次いで婚儀の順番となる。
 その前の晩から二人共にいることは叶わずそれぞれ別の部屋での待機となり、翌日リンクの部屋に訪れた司祭は彼を影の宮殿の最上階、諸々の儀式を執り行う時にしか開かれないという大広間へと導いた。
 そこは玉座の間とはまた違った荘厳な空間だった。ゆるいアーチをかたどる天井には玻璃が張られ、まっすぐに降りてくる黄昏色の柔らかい光に満たされている。
 高くに飾られるのはこの世界では特別な意味を持つらしい蛇の意匠の紋章と、そこへ続く通路の脇に立つのはミドナが影の世界に帰還した後募った家臣達。彼らとはもうすっかり顔なじみだがだからといってくつろぐわけにもいかない、気を引き締めて司祭の後に続く。
 「…では、光の世界の民リンクよ」
 紋章の真下に立つと司祭は咳払い一つ、杖を跪くリンクの頭上にかざした。
 「汝己の産まれた世界を捨てこの影の世界の民の一員となること汝の名にかけて誓うか」
 「誓います」
 リンクの言葉に迷いはない。
 司祭は厳かに頷いた。
 「よろしい」
 そしてリンクに顔を上げるように言うと、司祭はリンクの額にサークレットを填めた。ミドナの額を飾っているものと対のものだ。
 「それではリンクよ、汝はミドナを娶りその生涯を共に過ごすことを望むか」
 「はい」
 こちらもまた迷いはない。この世界に来てから悩み迷いながら国を復興させようと身を砕く彼女といつも肩を並べていたのだから。
 「…よろしい。では」
 背後で扉が開く気配がした。司祭は立ち上がって、振り返れとリンクに促した。
 振り返り、そしてまみえたものにリンクは己の目を疑った。
 こういう場だからという自制がなければ頬の一つや二つ、叩いていたかもしれない。
 そう、目の前にいるのはミドナだった。
 花嫁衣装なんていらないと突っぱねたけれど侍女達に姫様それではあんまりですと泣き落とされてしぶしぶ仮縫いしているのには己も何度も立ち会った。ミドナの意志を反映してなのかそれともこれが本来の形なのか、かなり簡素なものだけれど黒とこの世界独特の紋様を基調にしたドレスに身を包みベールを目深に被る彼女はこの上もなく美しかった。
 そして、そのミドナの横にはもう一人、ミドナ。
 忘れるはずもない、光と影の世界を救った旅の間中ずっと傍らに居た白黒の小鬼の姿。流石に結晶石は被っていないがふわりと宙に浮かぶ様はその子供じみた体といい、小生意気な雰囲気を湛えた顔といい、あの日のままだ。
 あまりのことに言葉を失うとはまさしくこのことで、花婿にあるまじく彫像のように固まったリンクの耳に司祭は囁きかけた。
 「リンクよ汝のこれまでの行状について調べはついておる。汝が愛したのは汝と同じ人の姿をしたミドナかそれとも小鬼の姿をしたミドナか」
 「…ど」
 空気を求めて水面に浮かぶ魚のようにぱくぱくと口を開閉し、やっとのことでリンクは言った。
 「…どうしてミドナが二人…いるんです?」
 小鬼の姿はあくまで呪われた末の姿だった筈。呪いは解け、そして人の姿に戻ったのではなかったか。二つの姿が同時に存在するとは。
 小鬼の姿がずい、と、前に出るとリンクの腕に縋ってその顔を見上げた。
 「…私、だよな?そうだろう?私はリンクが居てくれたから旅を続けられたんだ。頼もしかったし嬉しかったし…それにさ…言えなかったけど…ずっと言えなかったけど…私…」
 俯き、後は言葉になっていない。疑問はさておきその姿も正直に可愛いなあと思えてしまう。そういえば小鬼の時はこんな感じだったと知ってたのに改めて思い出したような不思議な感覚。
 また、人の姿が歩み出るとベールの奥から赤い瞳でリンクを見据えた。
 「…なあ、私だろう?わざわざ光の世界を捨てるなんて馬鹿なことしてこっちに来て…よりにもよって傾いた国の復興を手伝うだなんて言い出してさ…でも私…リンクが居なかったらどうなってたか…」
 言葉はぶっきらぼうだがその瞳に光るものがある。勢いだけで村を飛び出し長い旅の末にこの世界にやってきた時彼女は独りぼっちだった。彼女はとてつもなく芯は強いけれどその強さを支えていたものの正体を知った時どんなに驚いたか。
 とか各種回想感慨そっちのけで、二人のミドナはきっとリンクを見つめた。
 「「どっちなんだ?」」
 「…え」
 助けを求めて司祭を、そして居並ぶ家臣達を見るけれど彼らはただ穏やかに微笑んでいるだけという嫌風景。
 「…ええと」
 四つの赤い瞳に睨め付けられ、リンクは後じさった。
 「あっち!」
 言って、適当な場所を指さすと二人の視線がそちらに向いたその隙にリンクは駆け出した。
 「…逃げたぞ!?」
 「追わないと!」
 長い回廊を駈けて駆けて駆けて、二人の声が背中から追いかけてくる。
 「だから嫌な予感がしたんだ!」
 「待てよ影の結界張った方が早い!」
 …僕はそんなに信頼されてなかった?というか今ここで捕まったら僕はどうなるんだ?どっちかを選んだらもう一人はどうなる?そもそもなんでミドナが二人いるなんて異常な事態が
 …
 …
 …

 背中越しに、ミドナのくすくす笑いが聞こえる。
 「…だから式の間中えっらい神妙な顔してたんだな?」
 「…まあね」
 頭を一振りすると気がついて、慎重に額からサークレットを外す。それをまた慎重に置いてから幅広の飾り帯と肩当てとに手をかける。決して堅苦しいものではないのだがこの影の世界の服に慣れるまでまだまだ時間がかかりそうだ。
 「…で?」
 きついの苦しいのと散々文句をつけていたドレスを苦労しいしい肩から落とすと、ミドナは振り返った。その体を抱き寄せると彼女は笑って体重をかけてきた。…そのまま、背後の寝台に押し倒されるような姿勢になると彼女の柔らかな唇が頬に、額に当たる。
 「やっぱり後悔してるのか?この世界の民になったこと」
 「それはないよ」
 胸の上のミドナの体の柔らかさを、ぬくもりを確かめながら即答した。最善と思えることを選択して、実行に移したのだ。それは一点の曇りもない気持ちだった。
 「じゃあ小鬼の時の私と今の私がリンクの中じゃ別ものなのか?」
 聞き分けない子供にそうするようにミドナの手が己の前髪をかき回す。
 「両方とも私なのに酷いじゃないか…正直に言えよどっちが好きなんだ?」
 「本当に正直に言っていいの?」
 その瞬間の彼女の表情はある種の見物だった。そうだミドナはこういうところが可愛いんだよなと変な嗜虐心が疼く。
 「嘘だろ?…嘘だろリンク?」
 両腕でうろたえる彼女の腰を抱え上げればその軽い体は易々と己の体と位置を入れ替えた。
 ミドナの顔に己の影が落ちかかった。
 「…確かめてみる?」

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