彼女はそっとこちらのシャツの前を合わせた。
「前から思ってたけど、心と体が別物みたいなこと言うね」
拒絶なのかと思って一瞬ひやりとしたがらそうではないようだ、子供が眠る前に母親がそうするみたいに額に軽くキスしてくれる。
「…自分の体がどうしようもなく嫌だとか、そういうことは思ったことない?」
「あるけど」
困ったように笑う。
「でも体なんて自分で努力してどうにかできることとどうにもできないことがあるじゃない?どうにもできないことで、それで嫌いになっちゃったらきっと辛いと思うからだからあまり考えすぎないようにしてるの」
彼女が身じろぎすると、それに合せて首から下がるチェーンと指輪が擦れてかすかに音を立てた。
「…だから驚くことはあってもこれだから嫌とかあれだから嫌とか、そういう考え方はしたくないんだけど…自分のことでも人のことでも」
口ごもりながら両手を組んで指を弄ぶ。
これはおそらく彼女の精一杯の気遣いだった。見るものは見ても尚こんなことを言う。彼女は一体どこでこういう優しさを身につけてきたんだろう。
そしてそれを疑ったりする理由をわざわざ挙げつらえば自分が宇宙最大級の大馬鹿者になれる予感もひしひしと感じたので。
そうだ彼女が好きだっていうこの気持以外、今ここで何が必要だろう。
彼女の体を抱きしめるとやや遅れて彼女の腕も自分の背に回った。力強く。