恋に落ちてく10のお題・第一印象は最悪

 

 村の人間は皆兄弟みたいな家族みたいな関係だったしそれが当然だったから、世の中には剥き身の敵意も悪意もざらにあるなんてことを頭でなくこの体で、それも無茶苦茶な短時間で知ることになった。

 この牙が魔物を打ち倒せる位に鋭いのは実証済み。
 爪に刃物のような鋭さはないけれど脚の力も十分。
 別に殺すとかそういう物騒なことをしたい訳じゃない(人の言葉を喋る者をそうするのは気が引ける)、でも試してみる価値はあるんじゃないかと考えてみる。
 そのこっちを見下した居丈高な態度がちょっとでも改まれば。
 僕はたとえ成り行き上でも、仕方ないことでも、行く先を一緒にする相手なら普通に話したいだけ。命令されるのじゃなくて話がしたい、それだけだ。
 ミドナと名乗った小さな魔物はどんどん先導してゆく。どこへ行くつもりだという質問はぴしゃりとはねつけられたまま。
 どうやらずっと登ってきた塔の一番てっぺん、その小さな魔物はあっちだと古びた扉を指し示した。
 そろそろいいだろ?一体どこへ連れてくつもりなんだ?
 「もうすぐだから黙って行きな」
 ああもう。
 案外簡単なことなんじゃないか、飛びかかって首を押さえてやればいい。
 上手い具合にこっちに背中を向けてるし、そう、そっと忍び寄って。
 と、いきなりその被り物から長く伸びている髪がたなびいた。
 ばちん、という音がして僕は鼻っ面を押さえ情けない声を出して転げ回る羽目になった。
 髪が生き物のように僕の鼻を締め上げる。
 「おい、言っておくけどな、ワタシ相手に妙な気を起こすんじゃないぞ?犬一匹殺すのなんてどうってことないんだ。お前は黙ってあの扉の向こうに行けばいい」
 髪に散々力を込めた後、魔物はやっと僕を解放した。
 一体どうしてこんなのと同行しないといけないのかさっぱり判らない。

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