my grandma

 お婆ちゃんがあんなことを始めた本当に最初の頃は家の中に漂う甘い香りにとてもわくわくしたけど最近はその香りが鼻の先をかすめただけでお腹の中のものが喉に上がってくる気配がするから、僕は息を止めると足音を立てないようにキッチンの前を通って玄関へ抜け出した。
 僕のお婆ちゃんがクッキーを焼き始めたのは一月ほど前だ。
 それまでお婆ちゃんは教会のバザーにはぎれを使ったコサージュなんかを献品してたけどたまたまそういうものに使える布がなかったとかで手作りのクッキーを出したらとても評判だったって聞いた。
 近所の人にあのクッキー美味しかったのよまた焼いてくれないかしらとお願いされて焼き始めたら止まらなくなっちゃったらしい。
 僕は何度もお父さんとお母さんにお婆ちゃんちょっとおかしいよと言ったけど答えはいつも同じだった―お婆ちゃんに楽しみなことができたんだから好きにさせてあげなさい。
 でも僕は知ってる。朝から晩まで、それもいつ寝てるのかもわからない一日中お婆ちゃんは粉とバターと卵と砂糖をこねて綿棒をふるいオーブンの前とまな板の前を往復してる。それは「楽しみ」なんかじゃなくて別の何かだって。


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