ベルセルクその3

※未完※

●暁光●

 
 「明後日だ」
 と、グリフィスはジュドーに向かってきっぱりと言い渡した。
 ジュドーは不意を突かれた。何拍か置いて、辛うじて出てきたのは
 「本気か?」
 という言葉だった。正気か、と尋ねた方がまだ良かったかもしれない。
 視界の端に、ちらりと話題の人物がひっかかった。自分が取るに足らない厄介者であることを承知しているのだろう、ぱたぱたと駆け回っては皆に手伝えることはないかと聞いて回っている。
 ほんの何日か前に国境地帯をグリフィスの気まぐれで流していたときに、ひょんなことで助けた子だ。昔から何度か異民族の侵略を受けた土地の子供だからか、その肌と瞳と髪の色は内陸の人間のように白く淡くない。
 グリフィスは風にほつれた白銀の髪を一振りすると、もう一度言った。
 「明後日。明後日があの子の初陣だ」
 再度本気かと聞き返す愚行はジュドーは避けた。グリフィスの言葉は絶対で、覆らない。それほど長いつきあいではなかったけれど、そのことは良く知っていた。
 「あの子が生き残れるように色々教えてやれ、ジュドー」
 

 グリフィスについてゆくと決めたのがどの位前のことなのか記憶は薄い。
 彼はいつもそれほど多くを語らなかったが、しかしいつもその行動は確信に満ちていた。自分が成功することと他に認められることをごくごく自然のこととして、息を吸い込んで、吐き出すことのように知っている。自分が今まで出会ってきた数多くの者の中でただ一人、万に一つもないだろうと思われる光輝を背負った人間。
 彼はこれから何事かを成し遂げようとしていて、そしてその後に続く人間はまだまだ少なかったから、それならば自分のように目端の利く人間が居座る隙間もあろうと旅に加わったのだ。 
 旅を始めた頃は確かにそこらの野盗と間違えられてもおかしくないくらいの集団だった。
 しかし日を重ね、月を重ねる毎にこのキャラバンに加わる人間がじわじわと増えてゆく。
 ある者は自分と同じように、彼にとてつもない可能性を見て。
 ある者は彼に向けた剣の腕を逆に買われて。
 そしてある者は、彼に助けられて。やれやれ。
 ジュドーはこっそり吐息をついた。人数が増えるにつれて、皆ただ剣を振り回しているだけでは済まなくなってくる。馬の世話、武器の管理と保守、金の管理…その他色々。そういう雑多な諸々を任せるのだと思っていたのに。
 この子には。
 ジュドーは改めて、彼女をまじまじと見た。
 背丈は同い年くらいの子供に比べれば高い方だろうか。思い切りよく髪を短くしているけれど、誤魔化しようがない位に女の子だ。その細い腕は剣なんかより箒を振っている方が似合いそうで。
 彼女は直立している。
 ジュドーは目を閉じて、三つ数えた。
 決心して、目を開く。
 「よし新入り、三日後にあんたの初陣が決まった。コツみたいなのを教えてやるから生き残れるように頑張りな」
 彼女は緊張した面持ちで頷いた。仲間に加わったその日にとりあえず間に合わせで渡した一番細身の剣を腰に下げているけれど、果たして振ってみる暇があったかどうか。
 ジュドーは言葉を継いだ。
 「…剣術にも一応、基礎から応用から色々あるけど、今はそんなお上品なことをあんたに教えてる時間がない。だから人殺しのコツだけを教えてやる。剣、抜いてみな」
 言われるままに、彼女は鞘から剣を抜きはなった。
 「振れる?」
 両手で柄を持つと、おそるおそる左右に薙ぐ。細っこい外見の割に力はあるようで、腕が揺れてないのはせめてもの救いだ。
 

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