イリアは目の前の青年をみつめた。
彼に笛を渡そうとしたあの日からもう何年も経ってしまったような気がした。
つい最近まで向かい合えば彼の方がほんの少し目線が高いだけだったのに今や彼は自分をしっかりと見下ろし、線が細いながら仕事で鍛えられていた体は大人の、男性特有の厚みを増し-優しげな顔と空の色の瞳はそのままだが、少し頬がこけただろうか。
「…その、ごめんなさいリンク…色々、大変なことがあったのね?」
「ううん」
少年は短く答えただけだった。
ゆっくりと、燭台に照らされて床に落ちる二つの影が重なった。
「…ミドナ?」
小声で少年が囁きかけると、影が彼女の姿を形どる。
「何だよ」
「よかった、居たんだ。全然出てこないからどっかに行ったのかと思ったよ」
「ワタシがここ以外のどこに行くって言うんだ!?」
ミドナの声は何となく不機嫌だ。
「…何か怒ってる?」
「別に!」
「そう?ならいいけど。シャッドさんが地下室にいるらしいから行ってみようか」
少年の足取りは軽い。ちょっと憎たらしい位に。