「…うわ」
自分の指先を見てリンクは思わず声をあげた。
「ん、どした?」
部屋の中の調度類を珍しげにつついていたミドナが振り返る。
晴れて呪いも解け人の姿に戻れた夕べ、リンクは今日はどこでもいいどんなでもいいと宿を取ることを強硬に主張した。
何せ獣の姿でいる間、人里をふらふらしてると石は投げられるわ水をかけられるわでろくな目に逢わず、だからって野宿してれば魔物が四六時中追っかけてくるしエサだと言ってミドナがネズミだの兎だのを捕まえてきて放るしで心も体も全然休まる暇がなかったのだ。
元々田舎育ちなのである程度の乏しい生活には慣れっこだったがこれは流石に堪えたので、耳にまで詰まった埃を洗い落としちゃんとした食事を取ってやっと人らしい気分になれたのだが。
「爪にも泥が詰まってる」
リンクは手をかざしてみせた。
「そりゃ、あんなにあちこち掘り返してればそうなるだろ?見せてみろよ」
ミドナはリンクの手を取るとためつすがめつした。
「ああこりゃ無理して取ろうとしない方が」
言いかけるミドナの手をリンクは引っ張った。そのままぎゅーすると寝台にごろっと横になる。
「ななな、何するんだ!」
抗議もおかまいなしでリンクは頬をすりすりした。体格差故、全然逃れられないミドナ。
「だって最近ミドナ優しいから」
「そりゃワタシだってリンクをつき合わせてちょっとは悪いなって思って…こら、よせ!」
「よく村で犬とか猫とか山羊の耳触って遊んだんだ。触らせて」
悪気なくミドナの耳をふにふにする。
「ワタシは犬猫山羊じゃない!って耳はやだ耳はダメ耳はよせー!」
と、一瞬の静寂。
いつの間にか組み敷かれる体勢。
リンクの濡れた髪。
逞しい腕。
厚い胸板。
「…か」
ミドナはようよう声を出した。
「影の世界では婚前交渉は禁忌なんだぞ?」
「婚前交渉、って何?」