こうだったらいいのになという妄想2周目プレイ。ミドナは最初っから人間形態、リンクは湖底の神殿クリア後までずっと狼形態…であると脳内で補完して読んでいただけたらと思います。
●出会い●
ひたひたと近づいてくる足音に、狼は耳をぴんとそばだてた。
「…見ぃつけた」
やがて、鉄格子の前に立った人影に起き上がると歯を剥いて威嚇した。
その人物-婉然と微笑む、随分な長身の女だ-は、その物腰や、雰囲気からもしかすると貴人なのかもと思われたけれどつい今さっきボコられて狼に変化して牢に突っ込まれたばかりなのだ、何が信じられるというのだろう。
それに。
じめじめ湿気た牢なのに素足。
怪しい。
別に暑いわけでもないのに腰布のスリットもやたらと深く臍出しの服。
怪しすぎる。
変な髪と瞳の色。
怪しさ無限大だ。
唸り止まない狼を前に女は臆することなく鉄格子の間から手を差し入れると、言った。
「お手」
ぺそ、っと狼の丸い手が女の手の上に乗る。
狼はなんだかよくわかんないけど己の負けを骨の髄から感じた。
●出会い・その2●
とっとと行け早く行けとせっつかれて登った塔のてっぺんの小部屋、己を出迎えたのはこれまた喪服を纏った貴人の姿だった。
「…ミドナ?」
「覚えててくれたの?」
己そっちのけで頭上で交わされる会話を耳に、どうやらこの二人は見知った仲らしいと狼はぼんやりと考えた。
「…この方が…貴方の探していた?」
「思ってたのとちょっと違うけど…まあそんなもんかな?」
急に己に話題が振られたのには驚いたがともかく、喪服を纏った貴人は己の前に膝を折ると毛皮にそうっと触れてきた。
凛とした声音で言い放つ。
「お手」
ぺそ、っと狼の丸い手が貴人の手の上に乗った。
「おかわり」
もう片方の手が代わって手の上に乗る。
「…随分良く訓練されているようですが」
「ああ案外アタマいいかもしれないんだこいつ」
生まれて十数年、培ってきた人としての矜持も何も粉々に粉砕されてしまうのを狼は感じた。
●フェミ●
遙か彼方の地平から地響きのような音がするのを狼は女に先んじて聞き取った。
ややあって、何かが落石とはまた違った早さでこちらに向かって突進してくるのを認め-女は目の上に手をかざした。
「…あれがゴロンか」
ごく、と、彼女が息を飲み込むのが聞こえ、次いで彼女が何かに恐怖するのを滲み出る汗による体臭の変化で嗅ぎ取った。
ごろごろごろと突進してくるその黄褐色の姿は端から見たら笑えそうだが実際ぶつかり合ったらひとたまりもないのは明らかだ。
なんぼ高飛車でもやっぱり女は女。
それにひきかえこっちは狼と言えども男。
果たしてこの身であんなのと組み合っても大丈夫なのか?それはやってみなくちゃわからない、よろしいそれでは受けて立とう。
どいてミドナ!
狼は雄々しくゴロンと対峙した。
…
…
…
「…お前さ、ちゃんとゴロンのこと見えてたか?あんな大きさが違うのに敵うわけないだろ馬っ鹿だな」
いつの間にかどっかに避けてたミドナは地べたに潰れた狼に冷たい一言をくれた。
●多分こうなる●
色々あって古の勇者も着たとかいうゾーラの服を手に入れた。
「へーえ?」
ミドナはうさんくさそうに指先で服をつまみ上げた。
…狼と顔を見合わす。
「…で、誰が着るんだこの服」
狼は聞き返した。
僕が着るの?
ミドナはやれやれと首を振った。
「ここは私が着るのが妥当なんだろうな。いいさちょっとあっち向いてろよ」
狼は素直にあっちを向いた。
「…もういいぞ」
振り返った。
…元々男物の服だからなのかもしれないけど、何だか胸と尻がぴちぴちで強調されちゃってる。今まで割合肌の露出する面積が大きめの服だったけどこれはこれでなかなか、とは怖いので言えない。
「…古の勇者って」
窮屈な感じがするらしい上衣の袖口と下衣の裾口を気にしながらミドナは言った。
「随分背が低かったんだな?体の幅はいいけど丈が足らな過ぎだろ、これ」
そういえば腕は前腕の半分程、脚も臑の半分位までしか隠れてない。つんつるてんにも程があるっていうか背が高すぎだこの女。
狼はなんとなく傷ついた。
「じゃあ行ってみよう」
澄んだ泉に向かい、そこでミドナは何かに気がついたように狼を見下ろした。
「…それで、お前泳げるの?」
狼はふと我が身を振り返った。
●本当どうやったんでしょう●
ミドナは目の前の仮面を被った男を睨みつけた。
「一族の魔力を利用してるだけのお前が我々の王だと?笑わせるな!」
仮面の奥でふっと笑ったような気配がした。
「…ここでミドナ、お前に尋ねてみよう」
「何だよ。気が向いたら答えてやる」
挑発的な口調が改まらないのは蛮勇なのか愚かなのか。
「魔力を奪われちゃって今は只の人間に成り下がったお前がどーやって森の神殿とゴロンの鉱山を踏破してしかもボスブルブリンを成敗したりなおかつ湖底の神殿のあの頭が痛くなりそうな罠の数々をくぐり抜けて触手うねうねの卑猥な大化け物を倒した?」
男はちらとミドナの脇で地面にべっちゃりと伏せている狼に目をやった。
その水を吸った厚い毛皮にはところどころにむしられたような跡や焦げたような跡があった。毛の伸び具合からすると古いのと新しいのと混在しているようだ。
…どんな感じでミドナとこの狼が旅してきたのか、ちょっと察しがつくような気がした。
鱗に覆われた奇妙な服を纏ったミドナはきっぱりと言った。
「それはヒミツだ」
一瞬だけ、狼に心の底から同情した。
…かわいそうに。