所詮この世は男と女・2

 筑土町の一角にある銀楼閣ビルヂング、そこに間借りする胡散臭いと噂の鳴海探偵社の扉を勝手知った気楽さで軽やかに開いて訪れた朝倉タヱは、事務所の中を見回して珍しい人物を見つけた。
 「…あら」
 タヱの姿に気がつくとその珍しい人物-背が高くて黒髪碧眼の女の子だ-もぴょこんと立ち上がって頭を下げた。
 「ご無沙汰のセオリーです朝倉さん」
 「わー凪ちゃん?どうしたの?」
 槻賀多在住の凪と最後に会ったのはもう何ヶ月も前になる。その懐かしさでの彼女ところに行こうとして、タヱは両肩に手を置かれた。
 「ライドウ先輩にお招きいただいて今着いたばっかりのプロセスなんですあの」
 「はーいタヱちゃん俺とデェトしようデェトデェト」
 両肩に手を置いた人間つまり鳴海はそのままくるりとタヱの体を一回転させると、つい今さっき彼女が入ってきた探偵社の扉を開け放った。
 「…デェトってちょっと、鳴海さん?」
 「昼飯食いに行こう。たまには目先を変えて晴海町の海が見えるリストランテでパスタなんてどう?」
 「ちょっとお?」
 「ゴウトちゃんもそんなとこで伸びてないで来なよあの店新しいドルチェを始めたって聞いたぜ俺」
 ついでのように手すりの上に長くなっているゴウトを掴むと事務所の外の廊下に出る。
 ゴウトは迷惑そうに鳴いた。
 「にゃー?」
 「ねえ凪ちゃんとお話」
 「さあ行こうね行こうねー」
 扉が閉まり際、ちらりと目が合った己の助手に鳴海はへたくそなウインクをしてみせた。
 そりゃ、俺はヤタガラスからライドウが道を踏み外さないように監視しろって言われてるけどこういうのを邪魔しろとは言われてないもんなグッドラックなんだぜライドウああ俺ってば気が利いた上司。
 あっという間に二人きり取り残されたライドウは何だか微妙な間に耐えられなかったのでとりあえず言ってみた。
 「…町の案内を」
 「よろしくお願いしますのセオリーです先輩」

0