ふくろう

 「ふくろう」

 朝から屋敷には町一番の仕立て屋が訪れていて、その仕立て屋が夕方近くになって屋敷の馬車に乗って出てゆくと間もなく彼女は庭に駆け出てきたのだった。

 「ふくろうはどこ?」
 「はいこちらに、お嬢様」

 少女の声に答えて庭の植え込みからひょっこり顔を出したのは少年だった。
 少女は仕立て上がったばかりと思しき淡い水色のドレスの裾をつまんでいた。そのドレスは町で流行りのデザイン―上身頃は体の華奢なラインを際立たせるぴったりした造り、スカート部分はボリュームを少々絞って動きやすく身軽に―と、肌の白さを引き立てる水色のつやのある布地とあいまって少女を愛くるしい人形のように見せた。
 少年は全身汚れていたけれどそれは今この時までしていた作業のせいだなのだろうと察せられる。ズボンは泥だらけ、腕や顔には細かい傷がいくつかついている。髪はひっかきまわされたようにくしゃくしゃだ。
 少女は少年の格好を見ると眉をひそめた。

 「あらいやだ何なのその格好」
 「ばらの手入れをしていました。花の咲かなさそうなつぼみを摘んだり肥をやったり。そろそろいい季節ですし今手入れをしておくととても綺麗に咲いてくれます」
 「そう、楽しみね。ところでどうかしら、このドレス」

 言われて、少年は頷いた。飾らない素朴な賛辞の言葉が出てくる。

 「とてもお素敵ですよ。その色がお嬢様に大変お似合いです。この前の赤いドレスもお素敵でしたがその色はなお一層」
 「ありがとうふくろう」

 その賛辞を平然として受け止めると少女は何かを思いついたように問いかけた。

 「時にふくろう」
 「はいなんでしょう」
 「あなたは今年いくつだったかしら?」
 「はいそろそろ15になります」
 「あらいやだ、あなたってば私より二つも年上なのにやせっぽちのぴよぴよで背の丈も私と変わらないのね」
 「ご勘弁を、これだけは自分ではどうにもなりません」

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