ネタ下さい企画・その1

 ネタ下さい企画別名他の人だってネタには困ってるだろうに考えて貰おうってのがせこいんだよばーかばーか企画。しながわ金土様より「ミドナの乱暴な運転で顔をひきつらせるリンク(パラレル)」

 乳白色の薄闇の中でとろとろと微睡んでいると、誰かが呼んでる声がする。
 「リンク…リンク!」
 「…あー?」
 そんなぼやけた声しか出せない。そうだよ久し振りの休みなんだからもう少し、あと少し。
 強引にもう一度眠りの中に戻ろうとすると、今度は肩を揺すられた。
 「…リンク!」
 ぼすん、とマットレスが沈んだ。
 たまったものではない、目をこじ開ける。
 「…なんだミドナか」
 「なんだってなんだよ。生きてるかどうか見に来てやったんじゃないか」
 ベッドの端に腰掛ける彼女は口を尖らせていた。
 合い鍵を渡したのは失敗だったかなあとかぼんやり考えるとリンクは体を起こした。テーピングがまだ取れない左足首を何となく撫でさする。
 「…だからね」
 漏れるあくびをかみ殺した。
 「医者通いしてたら仕事が押せ押せになって死ぬ程忙しかったって言うんだろ?だからこっちだって遠慮してたんだ。それにしたってもう11時だぞ?」
 「…ああもうそんな時間?」
 枕元の携帯に目をやる。どうも頭がよく回ってない。
 吐息を一つ、わざとらしくつくとミドナは勝手を知った気軽さで台所に行って冷蔵庫を開けた。
 「で、例によって中身はペットボトルしかない、と。あーやだやだ」
 「仕方ないだろ?」
 冷蔵庫の前にしゃがむミドナに答える。実際台所も使う機会も時間もないから異様に綺麗だ。
 「まあそんなとこだろうと思って可愛い彼女が作ってきたんだな、お弁当を」
 一旦、玄関の方に引っ込んだと思うと彼女は何やら大きいバッグを持って戻ってきた。それをひらひらと掲げてみせる。
 「外行って食べないか?いい天気なんだ今日は」

 青い空。
 白い雲。
 潮気を含んだ心地よい風。
 シーズン前の海は人もまばらで静かだ。
 そして隣に居るのは自作のいびつなおにぎりをやや苦労しながら頬ばるミドナ。
 ロケーションは最高なのだが気分は最悪だった。
 車に酔うのは何年振りだろうと、リンクは冷えたペットボトルを額に当てて回想した。
 まだ足が痛いって?それなら私が運転しようか
 とか言うミドナを信頼しちゃったのがそもそもの始まりだった。睡眠不足とまともな食事への渇望が判断力を鈍らせたのかもしれない。
 シートベルトを締めるとミドナは物珍しそうに車内を見回した。
 「リンクの車のギアって変な形してんだな?クラッチかこれ」
 眠気が一気に覚めた気がして、リンクはギアを握るミドナの手を光の速さで押さえた。
 「…ちょっと待った。もしかしてミドナってAT限定?そもそも免許持ってる?」
 「高校卒業した時一番で免許は取ってある。限定でもない」
 問答無用でキーを差し込むとしれっと言い放つ。
 「マニュアルなんて教習車以来だけど」
 「…ちょっと待った!」
 「待ったなし!とっとと出るぞ」
 …それからなんとかして駐車場を出て、高速に乗って、高速降りて、海岸に着いてという間これまでの人生の走馬燈を見る思いだった。
 上手いことクラッチを繋げないからがっくんがっくん揺れる車。「あっちのが空いてる」と言ってはほぼ平行移動しちゃう急な車線変更。急減速と急加速。がっくんがっくん揺れる車と悲鳴を上げるエンジン。
 かといって一回もエンストも起こさなきゃ他の車と危ういことになることもなかったのは果たして彼女の運のせいかあるいは横で死にものぐるいでナビする人間がいたせいかあるいは中途半端な時間帯と道のチョイスのお陰で交通量があんまり多くなかったせいかは神のみぞ知る。
 ペットボトルがいい案配にぬくくなったので額から離した。大分気分も良くなってきた。
 ミドナは濡れタオルとおにぎりを差し出した。
 「…心配してたんだぞ」
 「え?」
 誰の運転が原因だと思ってと言いかけると彼女は言葉を継いだ。
 「携帯はずっと留守電だし会う度痩せてくしこけた位で足痛めるしさ。いい加減な生活で体がやわくなってるんじゃないか?忙しいのはわかるけどもっと体に気を遣えよ」
 赤い瞳が細くなってじとっとリンクを見つめた。
 …なんていうか。
 連絡取らない自分への恨み言が本題じゃなくてあくまで自分のこと心配してくれてる優しさが彼女らしいなあと思えたので。
 それが最高の調味料だったので多少おにぎりの形がおかしいとかおかずの味付けがどうも妙だとかつい今さっき彼女の運転が破壊的で死ぬかと思ったとかそういうことは全て宇宙の彼方へ消え去ったのだった。

 夏へ向かう日はまだかなり高いのだが、リンクは携帯で時間を見るとかなり遅いと悟って波と戯れるミドナに声をかけた。
 「ミドナ、そろそろ戻る?」
 「わかった」
 冷たく濡れた足とスカートの裾をリンクの投げつけたタオルで拭い拭い、ミドナは波打ち際から上がった。
 すっかり忘れていたことをふっと思い出してリンクは恐る恐る尋ねた。
 「…ところで帰りは大丈夫?運転」
 「そうだな」
 ミュールに足を突っ込むとミドナは笑った。
 「自信もついたし今度は地道で帰ってみようか」
 …修羅の予感にリンクは背筋を凍らせた。