おれぼく・その3

 正剛が手に小箱を持って部屋に戻ってきたのは夏休みも間近いある晩のことだった。
 大体最近は夏休みまでカウントダウン状態で寮全体ふわふわした雰囲気に取り囲まれてるんだけど正剛のその声もちょっとご機嫌というかそんな感じだ。
 「イザンいるー?」
 「いる」
 シャワーを浴びた濡れ髪をタオルで拭いながらイザンはバスルームから顔を出した。
 「何か用?」
 「三年の先輩方から可愛い後輩に差し入れだってさ。一つ取って別の部屋の奴に回しとけって」
 と、差し出されたのは小さな箱だ。
 入居した当初は学生寮という場所なりの制約にぶつぶつ言っていたものの時間の経過と共にそれはそれで寮生活に馴染んじゃったのでイザンは箱の蓋を開けた。
 「へえ、菓子か何か?でも歯は磨いたし」 
 菓子ではなかった。箱の中に沢山詰まった個包装の透けて見える中身は妙にカラフルだったけど菓子と間違える奴はいくらなんでもいないだろう。
 一つつまんで深ーい溜息が漏れる。袋越しでもぶにょんと嫌な感じの手触り。
 「…ってかここ共学でも生の彼女持ちなんて絶対数が多くないだろ?なんでこんなの」
 「えーほら明るく楽しく夏休みを過ごしましょうって気遣い的な奴?貰っとけばいいじゃん。特にイザンは可能性あるんだから」
 正剛はのほほんと言った。そののほほん分に幾分か毒気を中和されたような気がするけど言いたいことは言わずにはいられない。思わず眉間に手を当て首を振って嘆かわしいのポーズだ。
 「あのさあ正剛、ここって本当に頭のいい奴の来る学校なわけ?そんなにここじゃ性欲に振り回された一夏のアヤマチだの何だのが毎年発生してるの?ひょっとしてバカの集うバカ高校にボクって在学してた?」
 「頭がいいからだろ?逆に」
 無造作に一つ取って自分のポケットに突っ込んでしまうと正剛は言った。
 「は?」
 「ほら女の方でしようとすると前段階の検査でも薬でもそれなりに金かかるし色々屈辱的なこと医者に聞かれたりするっていうし?男の方で対策講じるほうがコスト的にも心理的にもお手軽なんじゃね?そういうのを秤にかけると」
 瞬間、イザンは正剛の頭を小脇に抱え込んだ。
 「…イザン、俺なんか変なこと言った?」
 「バカだと思ってる奴に正論吐かれると腹立つんだなって」

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