廃品回収・その3(日記に書いた細切れネタ)

ゆるゆるーなED後。

 影の世界はあの世と呼ばれることもあるようだけれど実際はその言葉から連想されるような場所ではない。
 確かに、光の世界で謀反を起こした魔法使い達がその世界に追いやられた当初は淡すぎる黄昏の光と荒涼とした岩肌が剥き出しになっている大地があるばかりだった。
 けれど厳然と光の世界と分かたれたようであっても極々時たま、どういうはずみでか光の世界との境にある障壁を越えてやってくるものがある。
 それは動物たちであったり、あるいは風に運ばれる草の種であったり。
 影の世界に居を構えた者達はそれらを故郷を懐かしく思い出させるものとして愛おしみ慈しんで育てた。長い長い年月が経ってそれらが光の弱い世界にすっかり順応し、独自の形態や生態を見せるようになってもそれは変わらなかった。
 たとえ少しの間の妨害や中断があったとしても。

 ミドナは足元に広がる白い花の絨毯に嘆息した。
 「…よくここまで育ったな」
 丹精しましたからと園丁が答える。
 事情を知らない者が見たらただ単に、丈の低い草花の群生と思われたかもしれないけれどそうではない。
 かつてこの宮殿をとりまく庭に植えられていた草木はある時全て踏みにじられ、枯れ果て、生命の気配など欠片も感じられない死の庭に成り果てた。
 それを少しずつでも昔の姿に近づけようと宮殿の外から株や苗木を取り寄せ、移植しという地味で時間のかかる作業を何年も繰り返して、その結果がこの白い絨毯だった。
 花は少しお部屋へお持ちしましょうかと園丁は尋ねた。
 ミドナは首を振る。
 「折角咲き揃ったんだからそんなことしたら可哀想だ。それよりちゃんと世話を頼む」
 一礼して園丁は下がったが、間もなく引き返してきた。姫様に客人ですと。
 「…客?」
 客という言葉に感じる違和感。一体誰だよ。
 昔のお知り合いだそうですと園丁はその人間をさしまねいた。
 そいつは招かれて庭一面に広がる白い花を見渡すとやっぱり嘆息して、
 「…影の世界ってこういうのはないかと思ってたけど」
 と、呑気に言った。
 影の世界は厳然と光の世界と分かたれたようであっても、極々時たま、どういうはずみでか光の世界との境にある障壁を越えてやってくるものがある。
 光の世界の日の光の色の髪と空の色の瞳を備えた、優しげな顔をした青年はミドナの姿を認めるとちょっと困ったようにして、けれどきっぱりと
 「久し振り」
 と言った。

●告白だ●

 「…久し振り」
 と、リンクは言った。
 「久し振り?」
 赤い瞳がリンクをじとっと睨め付けた。いつの間にやら目線は己の方が高くなってるというのにその無言の迫力にどぎまぎする。
 「…えーと正確には光の世界の暦で三年と四月振り…かな」
 「五月だ、ごかげつ。…何の用だよ、今更」
 ミドナはミドナで、遅い、とか、今までどれだけとっとと適当な男とくっついて世継ぎをこさえてくれコールが家臣からあったと思うんだよばーかばーかうわーん、とか言いたいことは山盛りあるんだけど口にも表情にも出さない姫君のプライド。
 有無を言わさずリンクはミドナをぎゅーした。
 「僕は
ミドナが
好きなので
会いに来たよ」
 「…」
 噛んで含めるというか棒読み臭いが照れてるのかもしれない。
 リンクの腕から逃れ出るとミドナはなおもリンクを睨んだ。
 「…それだけか?」
 「え?」
 「散々待たせておいてそれだけか?」
 …ええと。
 「大好き、です」
 「よろしい」
 姫君と光の世界からやって来た旅人が接吻する様はまるで頭突きでもするが如くだったと後々園丁が回顧録で語ったとか語らないとか。

●リンク頑張れ●

 「…どんなことでも手伝えることがあったらやりたいんだけど」
 と、リンクは玉座にかけるミドナの前に立つと言った。
 「…どんなことでも、か…」
 ミドナはしばし、考えを巡らせた。
 決して愚かな青年ではないが政に明るいかと言ったらその正反対だし彼がいきなりしゃしゃり出ては家臣達が面白くないだろう。
 とはいえ(内内定だけど)将来の婿に据えるにはあまり身分が低くても問題がありそうだ。
 一応影の世界を救ってくれたけどあの時は影の世界の民人が揃いも揃って曖昧な状態だった為当時の正確な記憶を持ち合わせる者が殆ど居らずノーカウント。
 となると手っ取り早く何らかの手柄を立てて貰って位を与えるのが一番なのだが。
 「…そうだ、一つある」
 と、ミドナは頷いた。
 「どんな?」
 「ザントがこの世界に満ちる魔力を強奪してっただろう?その悪影響でまだ辺境地域で魔物が暴れてて手強くて歯が立たない」
 「魔物」
 「その名も虚無の使いって言ってな」
 リンクの顎がかくんと落ちた。
 「ちょっと待った待ってよ待ってってば何その名前すっごく強そうだよ!?」
 「実際強いぞ。腕っこきの魔法使いを10名程送り込んだけど帰ってこなかったんで今その地域は立入禁止だ」
 玉座から立ち上がるとミドナはにっこり微笑んだ。その微笑みは小悪魔的だが発する言葉は氷の刃だ。
 「ちょっと行って倒してきてくれ。それで男を上げてこい」
 リンクはじりじりと後じさる。
 「…せめて準備とか」
 「安心しろポータル開けて送るから」
 虚空に真黒な穴が空いたと思うやリンクの姿がばらばらと解けて穴に吸い込まれ、消え失せた。

●リンク頑張れ・その2●

 どうやら虚無の使いはリンクの剣に倒れたらしい。
 ぼろ雑巾のような格好で腕を吊ったリンクは玉座にかけるミドナの前に立った。
 「随分かかったな」
 「…そりゃあもう山を越えたり谷を越えたり妖精に会ったりで大冒険だったよ?」
 ふっと笑うリンクの顔に影が濃い。
 玉座から立ち上がるとミドナはにっこり微笑んだ。…が、急に顔を引き締める。
 「それと」
 「まだ退治しないといけない魔物がいるとか?暗黒のなんとかとか邪悪ななんとかとか」
 散々嘗めた辛酸で思考が四十五度斜めになってるようだ。
 「違う。来年の半ば頃だって。ちょっと正確なところはわからないけどさ」
 「何が?」
 「だから、これ」
 己の臍の辺りをミドナが指さす。
 …リンクはなんとなく、頭の中で数を数えた。
 「…僕の?」
 「他に誰が居るんだよ」
 「…」
 「私も驚いたけどよっぽど相性がいいんだな」
 「…」
 「父なし子にならないで良かった」
 なあ?とまだ見えないものに向かって微笑みかけるミドナは何だかとても幸せそうだと、リンクは他人事のように思った

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