ホワイトデーネタ

 3月に入り大分うららかになった陽光に満たされた自室に篭り、たまったメールのチェックをしていると玄関でチャイムの音が聞こえた。
 『はーい』
 腰を浮かしかけたが日曜ということもあって家に居る妹が応対してくれるらしい、ぱたぱたというスリッパの音とドアロックを外す音。次いで耳を叩いたのは随分賑やかな複数の靴音だった。
 『ちわっす朝倉ー』
 『お邪魔します朝倉』
 『お、お邪魔しますっ』
 『以下同文ですー』
 …一体何なんだろう、思わずドアから顔を出すとそこに居たのはお馴染みのメンバーだった。皆思い思いにジャケットだコートだを脱いで色とりどりのエプロンを引っ掛けてる最中だ。
 「…宗親くんに高柳くんに正剛くんに、北川くん?どうしたんだい?」
 「あ、お兄ちゃん」
  おまけに晶乃までエプロン装着済み。
 「こんにちは総一郎さん。バレンタインに朝倉に手作りのチョコを貰ったんでお返しも手作りじゃないと失礼かなって話をしてたんですけど」
 きりりと青いエプロンを締めて説明したのは高柳だった。
 「でも寮の台所は狭いし学校の調理実習室は貸して貰えなかったんで、朝倉に聞いたら台所使ってもいいよって言うから、なあ?」
 にっと笑ってやけに大きなスーパーの袋を掲げたみせたのは宗親。
 「俺は兄貴に言われて」
 正剛。
 「ボクは正剛くんにくっついてきましたー」
 イザン。
 腑に落ちない気分になりながら、それでも総一郎は言った。
 「あはは、そうなんだ。そういうことなら。後で僕にもおすそ分けはあるのかな」
 宗親はぽんと胸を叩いた。
 「期待しちゃっていいですよ総一郎さんー」

 それから高校生の男四人が揃ってわやわやと小麦粉をふるうのバターと砂糖をこねるの卵を割るのとしているのは、台所に立つ人の姿は(大学時代を除けば)母とか妹とかどっちかと言ったら女性の方を多く見てきた総一郎には何だか異空間が口を開けているようだった。それに晶乃がポイントポイントでああした方がこうした方がとアドバイスを入れている。どうやらクッキーを作るらしい。
 「アラザンみっちりまぶすとびかびかですっげゴージャスになんね?」
 「それはまぶし過ぎだよ杉田っ」
 「ココア混ぜて生地を二色にしても面白いですよ先輩」
 「…俺は普通のシンプルなのがいい」
 カオスの様相を呈する型抜きの様を一歩引いて眺めている晶乃に総一郎はこそっと声をかけた。
 「…それで、誰が本命なのかな?晶乃は」
 晶乃は振り返るとにっこり笑った。
 「え?…秘密」

※箱実学園にはなさそうだけど<調理実習室※

0