集めた影の結晶石は奪われ、リンクは呪いをかけられて狼から人の姿に戻れなくなり、ゼルダは私に力を注いで消えてしまった。そんなつもりじゃなかったなんて言っても許されることじゃないから、だから言い訳はしない。
喇叭を吹く妖精の小僧に導かれて、どうやら何かの遺跡らしい場所に着くまでに半日位私とリンクは堂々巡りをしてたんじゃないだろうか。
もうここは魔物の気配はないよ。休んでもいいだろ
そう言ってリンクがぺたっと地に伏せてしまったのを無理に起き上がらせる気分にはならなかった。
小僧が召還する木偶を追い払うのにリンクの力に頼るだけじゃなく影の結界を何度も使ったりしたから私も疲れていた。よく考えてみたらハイラル城を出てからまとまった休憩を入れてなかったことだし。
「…そうだなワタシも少し休む」
影の中に帰ろうと思った。私には眩しい位の明るさとうっとおしくなるような緑と小鳥のさえずりに満ち溢れた光の世界じゃなくて暗くて静かで落ち着いた影の中へ。
すると伏せていたリンクは急に起き上がった。
ちょっと待って
「何だよ?」
一人で大丈夫?
「…何が」
リンクは歩み寄ると、その青い瞳で覗き込むように私を見上げた。
この狼の姿だと目はあんまり利かないけど耳と鼻が物凄く鋭くなるのはミドナも知ってるだろ?それでわかったんだけど魔物の匂いにも色々種類があるんだ。鼻が曲がる位の匂いとか、全然何の匂いもしない、無って言ったらいいのかな、そんなのとか
「…それで?」
リンクがどういうつもりでそんなことを言い出したのかわからなかったけれど、私は聞き返した。
私が姿を消そうとしないことに安心したのかリンクは腰を落ち着けた。
…それで、人って恐かったり気持ちが落ち着かなかったりするとほんの少し汗をかいたりして匂いが変わるし息が乱れたりするんだけど
鼻先を私に近づけて。
ミドナってハイラルを出てからずっと何か不安に思ってることがあるんじゃないの?ミドナの匂いって人の匂いに近いんだ
そう言われた時の私の気持ちって、思いがけず人に裸を見られた時のようなというか、そうじゃない、自分がずっと裸でいたのに気がついてなかったような気分だった。
この姿じゃ頼りないかもしれないけど、ミドナを守る位ならできると思うし一緒に居た方がいいなら居るよ
ワタシは大丈夫だ
じゃあ僕が一人じゃ心細いから一緒に居てくれって、言った方がいい?
…というたまんないやりとりがあって、リンクはさっさと丸くなった。
リンクがそうしたらいいって言うから(いやそうしてくれって言うから)私も丸まったリンクの四肢の間のくぼみに体を預けて。
いつからお見通しだったんだろうとか目が覚めてからどんな顔してリンクと話したらいいんだろうとか、色々考えることはあったけれど瞼はどんどん重くなった。
光の世界の明るさを不快に思わずに眠れたのはこの日が初めてだったような気がする。