凍てつく屋外から部屋の中に戻った途端に耳が痛くなった。帽子を脱いで肩に積もった雪を払うと火の気を求めて竈に駆け寄る。
「お前そんなさぶい格好でよく頑張るのう、まああったかくしてけや」
頭上から振ってきた獣人の声に(比喩でなく)凍りついた笑顔で頷くとリンクは竈の火に手をかざした。
そう、寒すぎた。暖かい南の地方に住んでいたから今までも湖底の神殿よりまだゴロンの鉱山の方が凌ぎやすい位だった。しかも勇者の服だと強引に着せられたこの緑色の服は冷気をよく伝える鎖帷子と対になっているのでこの気候下ではお前死ねと言われているようなものだった。狼に変化すればその厚い毛皮で冷気は防げたが狼の姿で獣人の前に出ると皮を剥がれてスープの具になっちゃいそうでまた別の意味で命が危うかった。
火に炙られて氷の棒のように思えた指先がとろとろと解けてゆく。
ほうと息をつくとリンクは獣人に断りを入れて煮えたぎる鍋の中身をすくい取った。部屋の隅に行くと息を吹きかけて冷まし冷まし口にする。
「…よく食べるなあリンク?」
ミドナが影から実体化すると呆れたように言った。
「食べたい訳じゃなくて体の内側からあったかくしたいんだよ。ミドナは寒くないの?」
「寒いけど多分リンクとワタシじゃ体の造りが違うからな、大丈夫だ」
「食べてみる?」
リンクはビンをミドナに差し出した。温気にミドナはうっと顔をしかめた。
「悪いけどな影の世界じゃそういう温度のモノを食べる習慣がない」
「そう」
リンクは立ち上がるともう何度か往復したので見慣れた厨房の中を探った。ごつい包丁が刺さったままのまな板。水を張った桶。探しものは案外簡単に見つかった。あんな巨躯の獣人が使うとは到底思えない大きさの匙。
ビンに突っ込んで中身をすくい取り、ふーふーするとミドナに差し出す。
「はいどうぞ」
「…は?」
「猫舌ってことだよね?」
別に猫舌というわけではないのだが。でも丁度いい案配に冷えたことだし何の臆面もなく匙を差し出すリンクに悪い気がして口を開く。
…一言で言うと、美味、だった。魚の生臭みがチーズで消えてチーズの塩気はカボチャの甘みで和らいで強火で煮込まれた魚はほたほたに煮崩れる位になってるからこれまたなんとも。
「…美味しい」
「ね?」
自分の料理を褒められたように嬉しそうにリンクが笑う。しかし
「思い出すなよくこんな風に子供にご飯を食べさせたよ、村で」
「はあ?」
「ほらカカリコ村に居ただろ?あの子達がちっちゃい頃はよく手伝ったんだ、色々と。ご飯あげたりおしめ替えたり」
「おしめ」
「うん」
…私はリンクの中で一体どういう位置付けの存在なんだ?
疑問に思いながらもミドナは次の匙に口を開けた。