リンクはポーチから薬を取り出すと指先で掬い取り、今朝からの斬った張ったであちこちにできた傷に撫で付けた。
「…たー」
効くけど染みる。今のところ軽症ばかりだから薬の大盤振る舞いをせずに済んできたけれどそれでも瓶の中の薬の残量は半分以下だ。予備の瓶は空っぽ。近いうちまたスカイロフトに戻らないといけないだろう。
「早くスカイロフトに戻られて薬の補充をされることをお勧めしますマスター。マスターの戦い方は雑なので一両日中に薬が切れる確率90パーセント」 しゅうっと目の前に剣の精霊が浮かぶと言った。
「わかってるよ。いちいちごもっともです」
反論はせず、何とはなしにリンクはファイを見つめた。剣に宿る精霊の姿を。背丈だけなら10代をちょっと出た位の高さだが仮面をつけたような顔面といい光を受けてゆらゆらとそよぐ姿といい人間とはいい難いが。
「そういえばさ、ファイ」
「何でしょう」
「ファイの体ってどうなってるの?」
「どうなってるとはどういう意味でしょう」
「んーだから、僕は毎日こんなで生傷だらけだけど、ファイみたいな体って怪我したりそういうことってあるの?やっぱり」
素朴な疑問だった。
ファイの姿がちょっと言葉に迷うようにそよいだ。
「そもそも精霊というのは人間の存在し人間が認知し得る物質界には存在しないものなのですがそこを敢えて顕現しようとすれば何らかの強力な力が必要となりますよく使われるのはこの剣のような古の神の力が宿る神器やあるいは尋常でない知力と精神力を持つ人間が作った呪物の類ですこれを媒介にして初めてファイたちは物質界に姿かたちを表すことが出来るのですがこの場合でも実際にファイたちがその身を置くのは精霊界であり物質界ではありませんつまりマスターが認識しているファイの姿は精霊界のファイの投影であり物質界に物質的な身体を置いているわけではないのですよってファイが傷つくということは少なくとも物質界ではありえません」
「…」
「難しかったでしょうか」
「うん」
リンクはこくこくと頷いた。