白く細い指が何かの意図を持って規則的に動く。動いては止まり動いては止まりするうちにその指先から垂れるものが何なのか遠目にもはっきりした。
彼女が色とりどりのビーズで形作っているのはこの国に伝わる伝統的な幾何学模様と花の模様の組み合わせだった。この国の、特に上流の階級に属する人間には手仕事はあまり尊重されないけど彼女は今までの人生のどこかでそんな技法を身につけてきたんだろうか。運指に迷いは一切なくじわじわと確実に模様が形どられる様はまるで指に魔法でも宿してるようで見事なものだ。
時間が流れるうちに模様は三巡してこれで完成、ということらしく糸を止めて切るとその細工を目の前にかざす。どうやら仕上がりに満足そうで、作ってる最中も普段はあまり見せないような夢中の様子だったから、そんな表情は彼女と長いつきあいの自分だって引き出せたことはないものだから少し妬ましい。
彼女は軽く頷いた。細工を持つ両手に力がこもると、
ぶちぶちぶちぶち
糸の千切れる嫌な音がはっきり聞こえて細工はばらけビーズに戻った。
「…わー!」
思わず上げた声に彼女はこちらを向いた。
「…どうしたのサイアス?」
わーともあーともつかない奇妙な叫び声をあげてベッドから転げ落ちた青年は足をもつれさせながら自分の方へいざり寄ったのだった。
「…どうしたのサイアス?」
こちらの困惑なんて構いもせずに青年は自分が膝の上に置いていた小箱を取り上げると中に手を突っ込んだ。…ビーズを取る掌の厚みは以前より薄く、腕も少し細くなってしまってるようだ。
「…なんて勿体ないことを」
「勿体ない?」
言われて、どうやらそれがついさっきまで自分が作っていたものを指しているらしいと気づいて、弁解しないとという気分になったので。
「…違うのサイアス。しばらく触ってなかったから指がよく動かなくなってしまって。だからちょっと指慣らしをしてて」
「指慣らし?」
「簡単な模様よ。それにほら、すぐにばらせるように弱い糸を使ってるから」
ビーズに紛れていた糸くずを取り上げると軽く引っ張って見せる。元々仮縫いに使うような細い糸だからそれほどの力も要らずにすぐ切れてしまった。
「…はー…」
青年は目を伏せると汗を拭うような仕草をした。
「あんなに上手くできてたのに」
「ううん、勘が戻るまでまだかかりそうだわ」