ミドナは横を歩くリンクに声をかけた。
「…全く、姫さんも一つの国の代表って身分の人間に対して扱いがぞんざい過ぎるよな」
「ミドナのことは伏せておくのが優先だからって。ちょっと頑張って貰ったら湖畔でエポナが待ってる」
「エポナ?」
その名前が何のものなのか、思い出す間の沈黙を気まずいものと取ったのかリンクは慌てて言い繕った。
「お仕立ての馬車とかじゃなくて悪いけど…とにかく目立たないようにって仰せだから」
「目立たないように、ねえ」
星明かりの下慣れない長靴で砂に足を取られないようにあやうい足取りで歩きながら、ミドナはこそっと吐息をついた。
リンクは鏡の間に降り立ったミドナに包みを差し出した。
広げてみれば包みと見えたのはリンクが纏っているのと同じ旅の者が着用するフードのついた外套で、その中にくるまれていたのは柔らかい革の長靴だった。
「…ほら、ミドナの髪とか服とかはハイラルの人とは違うし…それにその素足じゃ長く歩けないだろうって」
「それってあれか」
リンクの弁解から意味するところを汲んで、ミドナは尋ねた。
「つまり姫さんは私にここからハイラルまで歩いて来いと」
「色々検討はしてらしたみたいだけど」
「ポータル使ったら駄目なのか?」
「最近平和になったから夜でも人の往来が多くて、目立つのは困るって」
皮肉の一つも言おうとしたけれどリンクはただゼルダに言われてることをそのまま伝えているだけなのだと思い直し、石段に腰掛けると足首のアンクレットを外した。
「…最近籠もりっきりだったしいい運動かもな。歩いて来いってのなら歩いてやるよ」
かくて、冒頭に戻る。