ミドナは手桶に湯を掬い取った。
背中越しの手拭いを浸す気配にリンクは俯いたまま重々しく口を開いた。
「いくらなんでも不味いんじゃ」
「細かいこと気にするなよ」
首筋から肩からわしわしと手荒く擦られてリンクは息を詰めた。
「仮にも影の世界の姫君をひん剥いて無理矢理洗ってた奴がそんなこと言うなんてさ」
「だからそういう人に聞かれたら誤解されるようなことを」
被ってた影の結晶石を脱がせただけです。
「ほら、腕伸ばす」
有無を言わさずひっ掴まれたので抵抗を諦めて腕を上げる、と。
背に当たったむにっと柔らかいものに思わず体を強ばらせた。
肌と肌が触れるこの感じ。…振り返りたいけど振り返れない。
「ミドナ?」
「ん?」
「…その、ちゃんと巻いてるよね?」
そうであって欲しいという希望というか理性が背に直に伝わる刺激を否定する。
「もう取った」
あっさりと言い放ってはわっしわっしと腕を擦るミドナ。
顔(と、体のごく一部)に体中の血が集まる気配がした。
「何前屈みになってんだよ洗いづらいじゃないか」
「もういいこれ以上はいいっていうか結構です止めてください自分で洗う自分でっ」
「何だよつまんない」
湯船の縁にもたれかかるとミドナはあさっての方を見て呟いた。
「つまらなくていいよもう」
何隠してるんだ見せろとかそれはいくらなんでもご無体なとか色々あってミドナを引きはがし湯船の方にお引き取り願うとリンクは頭から湯をかぶった。
「…大体お姫様があんな湯女みたいなこと」
「湯女って?」
「…ううん、何でも」
不埒なことを考えた自分を諫めてもう一度、湯をかぶるとリンクは腰を浮かせた。
「待てよ私も上がる」
待ってどうしろと。
これ以上ミドナにどうにかこうにかされるのは色々な意味で耐えられそうにない。
思わぬことで長風呂になった上に慌てて立ち上がったのも良くなかったのかもしれない。
目の前が、ぐらりと傾いだ。
「リンクどうした!?」
ミドナが手を伸ばしてきたのを感じて思わずその腕を強く掴む。…ただ彼女も男一人、引っ張り上げるだけの膂力はなかったようで、彼女諸共濡れた床に足を滑らせることになった。
目の前が暗くなったのもほんの数瞬だろうか。
「…リンク!…リンク!」
ほっぺをぺちぺちされる刺激に自分にまとわりつく暗闇をようよう振り払ってリンクは目を見開いた。
「…ミドナ!?」
…そう、次の瞬間気がつかないといけなかった。
自分の体の下にあるのが硬い石の床じゃないってことに。
それがもう産まれたままの姿のミドナだったってことに。
何と形容したらいいのかわかんない沈黙が長いことあって、ミドナはぼっと頬を染めた。
「…そりゃさ、順番は逆かもしれないけど…別に私は構わないぞ?」
…何を?