「…ねえ、説明してよ?」
コースの最後、どっしりしたチョコのケーキをフォークでつついて崩しながらタヱは鳴海に問いかけた。
デェトしようとこの晴海町のこの海の見えるリストランテに引っ張り込まれて普段馴染みの無いオリーブオイルやバターをふんだんに使った料理の数々は確かに美味しゅうございましたがコースの間鳴海は何を聞いてもはぐらかすばっかりだったので。
「いやさ」
香りも高いエスプレッソのカップを傾けると鳴海はやっとまともに口を利いた。
「ライドウが『今度こちらに凪が来るらしいんですが所長』なんて言うからさ、面白くて俺」
「それって槻賀多から帰ってきてからライドウ君と凪ちゃんが連絡取ってたってことよね?」
それは凪が言っていた、「ライドウ先輩にお招きいただいて」と。
鳴海はにやりと笑った。タヱの記憶にある中でも最上級に鳴海の「人の悪さ」を具現化した笑い方だった。
「何だか二人がごそごそやり取りしてたのは知ってたけどさ、あのお堅いライドウが、だぜ?あの顔して女の子をこっちに招くなんて言うから俺決めたんだよ。全力で放っておくって。タヱちゃんが来なくても俺は適当なとこで逃げ出すつもりだった」
「…ライドウ君可哀想」
探偵社に住み込む書生と知り合ってから短くはないが、あの少年は(槻賀多行で目にしたように)武芸に秀でているけれどバンカラとかそういうのではなく物腰はどっちか言ったら穏やかな方だし背は高いし顔はいいしとなると周りの女学生だって放っておきそうにないのにそういうことにはとんと不器用そうな印象だった。それをお茶請けにしている目の前の男は全くたちが悪い。
「…それで」
ケーキの最後の一口も胃に収めてしまうと、紅茶で口の中を潤す。
「ライドウ君が凪ちゃんをこっちに呼んだのはわかったわ、鳴海さんがそれには手出しするつもりが全然ないのもわかった」
「うん」
「それで、デェトしようって私をわざわざ晴海町くんだりまで連れて来たのは『ついで』の話なの?」
鳴海の顔が面白い感じに固まった。